平成30年6月17日 第18回青葉乃会
「恋重荷 ~男の恋の妄執~」
銕仙会の舞台で満員のお客様をお迎えし、盛況のうちに終えることが出来ました。
ご来場いただきましたお客様には、心より御礼申し上げます。
また、事前講座にもお越しいただきました方には、重ねて御礼申し上げます。
たくさんのアンケートもいただき、ありがとうございました。
写真で振り返りたいと思います。
【会場について】 銕仙会能楽研修所
今回の会場は、私が所属します銕仙会の舞台を選びました。
この舞台の収容人数は200人ほどで、小規模な劇場になりますが、舞台と客席が近く独特な集中力が生まれる空間でもあります。
お客様の声では、能面がはっきりと見えて良かったという感想がありました。
客席は桟敷で、いつもは自由席にしていますが、今回はこの舞台では初めての全席指定を試みました。
座席数は140席限定、畳の席には段差のところに全席座椅子を使用し、座布団も二枚重ねにしました。
ゆったりと座れて、足腰に負担がかかりにくい座席を設定しようと試みました。
お客様に対しては、それなりにおもてなしが出来たのではないかと思っております。
「恋重荷」
・前場
天皇の住む御所の庭を手入れする老人が、妃の女御を垣間見て恋心を抱く。
この恋重荷をもって庭を百度も千度も回れば、もう一度姿を見ることが出来るといわれ、
命を賭けて重荷を持とうとする。前場の最大の見せ場がこのカット。
二度にわたって重荷にトライします。
<一度目> 重いことを知らずに腰を落として持ち上げようとする場面

・二度目 全身全霊を傾けて再度挑戦する場面 今度は中腰になって、上に引き上げるように持つ手の持ち方、腰の位置に注目してください。
一度目と二度目は微妙に持ち方が異なっています。
・望みは遂げられず、ついに憤死してしまう

老人の役に用いた面は髭阿瘤尉(ひげあこぶじょう)。
ほほ骨の部分が瘤(こぶ)のようにふくれている形状を阿瘤尉といっています。
髭(ひげ)が唇の上下、とあごの部分の三段にわたって植えられているので髭阿瘤尉となります。
・後場
重荷をもって庭をぐるぐる廻れといわれた老人ですが、その重荷は人間の力では到底持ち上げることのできないものだったのです。
老人は怒りを抱いたまま憤死してしまいます。
その老人は怨霊となって現れます。
<怨霊の出で立ち>
白頭(しろがしら) 老体・神霊の役に用いる
面ー鼻瘤悪尉(はなこぶあくじょう) とても恐ろしく強さを中に秘めた面立ちです
茶地の法被(立枠模様)
紺地の半切(立浪模様)
鹿背杖(かせつえ)
そして自分をだました女御を責めつけます。
肉体的苦痛を与えることによって、持ち上げることのできなかった苦しみを伝えたかった。
「恋重荷」の古い型付けが昭和30年代に発見され、それには怨霊が重荷を軽々と持ち上げ、女御の肩に押し付けると書かれています。
巌の重荷を女御に実感させ、「こんな重荷は持てるはずがない」と女御はうめくのです。話の展開が非常にわかりやすい演出となっています。
恋い死にの恨みはこれで晴れたことになるわけです。
あとは怨霊となった老人も成仏したい。そのため「恋重荷」は意外な展開になって結末を迎えます。
それは女御に自分の弔いを求め、それによって恨みは跡形もなく消え去り、その後は女御の守護神となって千代までも守り続けることを約束すし姿を消す。
これぞ世阿弥の美学ともいえる演出ではないでしょうか。
前回のブログで紹介した世阿弥の「恋重荷」への言葉を再度紹介してみます。
【作者世阿弥の言葉】
「この能は、色ある桜に柳の乱れたるようにすべし」
(美しさと強さが交錯するように演じるべきだ)
そのような形で演じ終えたかどうかは、お客様の判断になりますが。
拙文を最後までお付き合いいただきましてありがとうございました。