榮夫伯父と荻原達子さんを偲ぶ ー銕仙会竣工記念日にー
能
卒塔婆小町 一度之次第

シテ 小野小町 観世銕之丞
ワキ 高野山僧 宝生 欣哉
ワキツレ 従僧 殿田 謙吉
笛 一噌 仙幸
小鼓 曾和 正博
大鼓 國川 純
谷本 健吾 柴田 稔
長山 桂三 清水 寛二
地謡 浅見 慈一 山本 順之
馬野 正基 西村 高夫
後見 鵜澤 久 小早川 修
26日に行われたこの日の舞台は本当にいい舞台でした。
銕仙会のカラーが全面的に出た舞台でした。
今年一番の舞台ではなかったかと思います。
こんな時には、能をやっていてよかったなぁ!と、つくづく思わずにはおれません。
なにが良かったかというと、私から言うのは生意気なことですが、
『能』に対して舞台に出ている全員が謙虚な態度で臨み、心が一つになってある方向に向かって能を創っていった、そんな気がします。
シテ、ワキ、地頭、囃子方、この4役の誰かが自己主張が大きいとこのような結果にはなりません。
私なりの言葉で言うと、『能に出会えた』舞台でした。
拍手も最後の最後に、地謡、囃子方が引くまで誰もする人はいません。
この舞台をご覧になった方は本当にいい体験をされたと思いますし、一生の思い出の舞台になるのではないかと思います。

この「卒塔婆小町」の公演は、
今年の春になくなった、観世栄夫師と荻原達子さんの追悼のため、観世銕之丞師が企画されたものです。
(見所の地謡側の壁にお二人の写真が飾られていました。)
実はこの日に公演を企画された理由は、ただお二人の追悼ということだけではなく、他にも理由がありました。
一つには、12月26日は銕仙会の建物が建てられた竣工記念日なのです。
今年で26年目になるのですが、この記念日には毎年、当時建設にたずさわった方々が、なんと20名近くも集まりこの記念日を祝っていました。それだけこの建設には熱い思いがあったのでしょう。
そしてこの建設に一番の尽力を尽くしたのが榮夫先生と荻原さんだったのです。
それゆえにこの二人の方の追悼の公演をこの日に選ばれたのです。
また一つには、今年になって榮夫先生は急に体力が衰え、荻原達子さんが榮夫先生の最後の舞台として企画されたのがこの『卒塔婆小町』だったのです。
それは9月28日に行われる予定でした。
いしくもその日は「観世榮夫さんを偲ぶ会」になってしまったのですが。
榮夫先生の遺言のなかに、
「自分の葬式は出さなくてもいい、この青山の舞台で追善会をしてくれ。」
ということを言われていたのです。
これらのことを合わせて、銕之丞師はこの日に「卒塔婆小町」の上演を企画されました。
遠い空の向こうで、榮夫先生も荻原さんも笑顔でこの日の舞台をご覧になっていたことでしょう。
合掌