四日間の日賀寿能(ひかずのう)で行われた『翁』と狂言『三本柱』、『靱猿』(狂言は日替わりで)。
パブリックシアターの能舞台は、後方に三本の橋掛かりを持つ特殊な舞台設営となっています。(2年前ポール・クローデルの新作能『女と影』(渡辺守章作・演出)もこの特殊な舞台で上演されていました。)今回はそれに加え、大小二つのしめ縄が空間に浮ぶ演出です。
また今回の『翁』の上演に照明演出も取り入れられたようで、あまりにも古典的な『翁』を現代の新たな空間で『翁』を捉えなおしてみた、そんな試みだったように思われました。
『翁』は毎回異なった演出になっています。
『翁』 初日之式 田歌節 観世清和 野村萬斎(三番叟)
『翁』 二日之式 烏帽子之祝儀 梅若六郎 野村万作
『翁』 三日之式 子宝 観世銕之丞 野村萬斎
『翁』 四日之式 三上山 観世榮夫 野村万作
『翁』については、
横浜能楽堂が企画・公演するする「もうひとつの『翁』」という記事で少し紹介しましたが、「もうひとつの『翁』」の研究会の代表でもある竹本幹夫氏が今回のパンフレットに寄稿されていました。 今回の上演形式についての説明がありますので抜粋します。
「今回上演される観世流翁の初日・二日・三日・四日之式というのは、勧進能の各日の冒頭で演じられる、翁の演式を日毎に変化させるという室町時代の故事に基づく異式演出で、各日毎に、千載舞や翁舞の前後の詞章に替文句を用い・・・。
三番叟も同様に日毎に演出が変化するが、もっとも特徴的なのがアドの問に答える黒式尉の文句で、秀句仕立ての歌謡や問答で、にぎやかに舞台を盛り上げる。・・・」
現在普通に上演されている翁は、「四日之式」のものです。
(とりわけこの小書きは明記していませんが。)
この「四日之式」の詞章に多少の変化をつけたものが、初日、二日、三日之式ということになります。基本的な形態は変りません。
また囃子方もところどころに常とは違う手法を取り入れてるようです。
今回のパブリックシアターでの催しは、『翁』の異式演出に、三番叟の異式演出が加えられたということになります。
私が参加した四日之式の『翁』は、翁の舞に関しては常とまったく変りません。
三番叟の小書き「三上山」が常と違っていました。
当日の舞台のおぼろげな記憶を再現してみます。
揉みの段を舞い終えた三番叟は黒式尉の面をつけ、面箱のアドと問答をします。(ここまでは常と同じです。)
この問答に常とは違うやり取りが加えられていました。
黒式尉 「右の耳の上にあるものはなんじゃ。」
アド 「鬢(びん)の髪(かみ)じゃ。」
黒式尉 「左の耳の上にあるものはなんじゃ。
アド 「鬢(びん)の髪(かみ)じゃ。」
黒式尉 「頭の後ろにあるのはなんじゃ。
アド 「これも鬢(びん)の髪(かみ)じゃ。」
黒式尉 「近江の神がやってきた。」
アド 「めでたや、めでたや。」
おおざっぱな記憶ですが、内容は上記のとおりです。
この問答は言葉の遊びを楽しんでいるものです。
近江の神というのは、近江には三上山(みかみやま)という山がり、この山自体が神として崇められています。
よって近江の神とは、この三上山のことをさすのです。
黒式尉はアドに3回、髪(かみ)と答えさせました。
三つの髪、これが三つの神となり、三上山となるのです。
近江と三上山の関係を知らなければ、アドの「めでたや、めでたや。」の意味は理解できません。当時では当たり前にみんなが知りうることだったのでしょうね。
私は実はこの狂言の問答を聞いた時には、このジョークを理解できませんでした。(^_^;)
三つの髪から、三神までは想像できましたが、三上山まではたどりつけなかったのです。
番組をよく見ておけばよかったのですが、でも仮に三神から、三上、三上山を想起できたとしても、それと近江とのつながりまでは知る由もありません。
あとから近江と三上山の事を聞いて初めて理解しました。
ちなみにこの三番叟の「三上山」の小書き(特殊演出)は、今回初公演だったそうです。
ユーモアたっぷりの問答ですね。
だじゃれに似た言葉遊びは室町時代には大流行だったのでしょう!
この日はあと、狂言「靱猿」がありました。
野村萬斎さんと長男の裕基君の親子競演です。
とてもかわいいお猿さんでした。!