街ではあっという間に桜が満開になりました。
都内ではソメイヨシノばかりですが、桜の花景色を見ると、あ~、春だなって気分になりますね。
でもこの景色にはどことなく春独特の倦怠感を感じてしまいますが・・・
28日青山能では「熊野(ゆや)」の公演がありました。
ちょうどいまと同じ桜が咲き誇る春の季節を代表する演目です。
「熊野松風に米の飯」といわれるほどの人気曲とされています。
あらすじ
「平宗盛の愛人・熊野(ゆや)は故郷の老母から手紙を受け取ります。
『私はもう先は長くはないかもしれない。せめてこの春に顔だけでも見せておくれ・・・』
悲しむ熊野は宗盛に暇を請いますが、宗盛は許しません。
桜はいまが盛りだ、花見に行こう!と牛車に乗り花見に出かけます。
花見の宴席で熊野の詠んだ歌、
『いかにせん、都の春も惜しければ。なれし東の花や散るらん』
熊野の老母を思う気持ちに負けて、宗盛は故郷に帰ることを許します。」
たわいのない話ですが、作品全体が美文でつずられ、謡い物としても、演能としも謡いどころ見どころが多く、人気の作品になっています。
私も先代の銕之丞先生に稽古をしていただいただけで、本番の舞台ではまだ演じていませんが、演じる側からすると、かなりの高度なテクニックが要求される作品で、難しい作品のひとつになっています。
(「熊野松風に米の飯」、でもこの二つを比較すると私としては「松風」の方が断然魅力的ですが・・・。)
この「熊野」でもっともの見どころといえば、牛車に乗って花見をするところになると思います。
いまの四条と五条の間にある賀茂川の松原橋から清水寺までの約2キロ弱の行程です。
当時の牛車は豪華絢爛で、昨年京都の風俗博物館に行ったのですが、源氏物語をミニチュアの人形や作り物でその世界を再現してしていました。
そこに牛車がありました。→
風俗博物館
能の牛車は右の写真のような作り物です。
比べてみると面白いですね。
能の作り物の中ではかなり派手なものですが、こうしてみるとあまりにも質素な感じがします。
その質素さがまたいいのかもしれませんが・・・
(じつはこの作り物、書生泣かせのものなのです。
作るのに2時間近くかかり、それこそ「熊野」の時には憂鬱になってしまいます。
しかも舞台に出てるのはほんのわずかなのです・・・)
この花見の時、牛車に乗っているのはシテの熊野だけで、ワキの宗盛はその側に立ち並んでいるだけです。
当然宗盛も牛車に乗って花見に出かけているわけですが、舞台にはシテの牛車の作り物ひとつしかありません。宗盛は見えない牛車に乗っているのです。(汗)
これもシテをを引き立たせるための古人の工夫なんでしょうね。
能の演出はなんと大胆なのでしょうか!
まったく細かい理屈などは気にしません。
これも能の魅力のひとつでしょう。
能って面白いですね!