能「一角仙人」
【はじめに】
この能は、鹿の体内から生まれ、頭に一本の角を持つ仙人が、女の色香と酒によって神通力を失い自滅してしまうことを描いた物語です。
この世を離れ、奥深い山の中で厳しい修行を行う一角仙人は、様々な神通力を獲得しました。
しかしながら孤高の仙人も、ひとたび下界の人間と交わると欲望に打ち勝てず、女色と酒の誘惑に負けてしまいます。
仙人は守らなければならない戒律をいとも簡単に破ってしまい、それによって神通力を失い、ただの人間に戻ってしまいます。
男にとって、女と酒による失敗はどこにでもある話だと思いますが、それは仙人とて同じことなんだと言っているのです。
この物語はインドの神話を原典にしています。日本では「太平記」や「今昔物語」などで紹介されており、
それらをもとに「一角仙人」は書かれたとされています。
本来、人間の愚かさを笑い飛ばし、風刺して描くのは狂言の仕事なのですが、
それを能で描くことによって、「一角仙人」は理屈抜きで、見た目の面白さが全面に表されている作品となっています。
【作者】
金春禅鳳(ぜんぽう) 1454~1520
【舞台設定】
所:インド波羅奈国(はらなこく)
時:紅葉の秋
作物
ワキ座に萩屋(シテが入る)
大小前に一畳台と岩屋(龍神が入る・二人)
【登場人物】(登場順に)
ツレ:旋陀夫人(せんだぶにん)
ワキ:波羅奈国(はらなこく)の宮人(かんにん)
ワキツレ:輿舁(こしかき)二人
シテ:一角仙人
ツレ:龍神(子方)二人
【あらすじ】
天竺(インド)の波羅奈国(はらなこく)に住む一角仙人が、龍神を岩屋に閉じ込めたために、数か月も干ばつが続いている。
国王は心配して仙人の神通力を失わせる計略を募った。
かくして、美女を連れてゆけば女人に心を移し神通力を失うであろうとの計りことが決定され、
国の中で最も美しい旋陀夫人が選び出され、宮人に伴われ、仙人の住む山奥に赴く。
宮人一行が一角仙人の岩屋に到着し、一夜の宿を乞うと、仙人はここは人間の来る所ではないと一度は断るが、
夫人の美しさに魅了され、宮人が持参した酒で酒宴となった。
夫人が舞を舞いはじめると、仙人はその美しさに惹かれ、ともに舞を舞いやがては酔い伏してしまう。
それを見た夫人は宮人を従えて都に帰ると、岩屋が鳴動して、龍神(二体)が岩屋を破って現れた。
仙人は龍神と闘争するが、神通力を失った仙人は敗れてしまう。
龍神は天に昇り大雨を降らせ龍宮に帰っていった。
次回は見どころを書いてみます。
※掲載の写真は、2019年6月14日銕仙会定期公演チラシの写真を引用しています。
シテ 清水寛二 撮影 吉越研