平成30年10月8日 第19回青葉乃会
「江口 ~優艶のきわめ~」
宝生能楽堂でお客様をお迎えし、盛況のうちに終えることが出来ました。
ご来場いただきましたお客様には、心より御礼申し上げます。
また、事前講座にもお越しいただきました方には、重ねて御礼申し上げます。
たくさんのアンケートもいただき、ありがとうございました。
いつものように写真で振り返りたいと思います。
・前場
旅僧が江口の里を訪れる所から能は始まります。
江口の里は、その昔水路交通の要として賑わったところで、そこにはたくさんの遊女が旅人を慰めていた。
当時の遊女は和歌の才能も有り、歌舞音楽に長けた遊女でもあったわけです。
江口の遊女の中でも、トップの遊女は「江口の君」と言われ、この「江口の君」の幽霊が前場に登場するのです。
唐織着流し、能の典型的な女性の出で立ちです。
この唐織の文様は「紅白萌黄段牡丹菊花熨斗唐織」。
檜垣模様を下地に、赤・白・萌黄(もよぎ)の三色が段になって織られ、熨斗(のし)に入れられた牡丹と菊の花がちりばめられています。
能での約束事で、唐織についてはシテはこういった段物の唐織を使用して、ツレは一色のみの唐織を使用することになっています。
後の場面の唐織をご覧いただければよく分かると思います。
この唐織はとても品があって好評でした。
面は「増(ぞう)」天下一友閑作(江戸初期)
自分の心をしっかり見つめている表情が美しいです。
女面の推移は、乙女の小面から始まり孫次郎、若女と年かさが増えていきます。
「増」の年齢をあえて言うなら20代後半となるでしょうか。
また「増」は神や仏の相(そう)の面といわれていて、主人公が女神、天女である曲に使用されることが多いです。
「増」の造形の特徴を分かりやすく説明されたものがありますので紹介しておきます。
『額も長く、ほほの肉付けがぐっと引き締まり、鼻筋も細くほそおもてです。
そのうえ、眼全体がくぼんで、さらに目の幅もやや細く、その周囲にかげりをつくっています。
口も、若い女面では両端がやや引き上げられているのに対して、増女では反対に両端がやや下がりめで、
これはこの面を老(ふ)けめに感じさせる大きな原因です。明るさや愛らしさは少しも見られませんが、
全体に清高な品位があって端正です。』
(「能面 美・形・用」中村保雄著 川原書店)
・後場
【川逍遥の場面】
江口の君が在りし日の姿を現しました。
仲間と川舟に乗って客を誘っているところ、
能「江口」のなかではとても華やかな場面です。
真ん中がシテ、両脇がツレです。先ほど言いましたが、ツレの唐織は赤地一色ですが、シテの唐織は黒紅と浅黄の段になっています。ツレの面は小面、シテは増です。この増は前シテと同じものを使っていますが、身につける装束によってずいぶん印象が変わっていますね。これも能を観る面白さだと思います。
【遊女の舞】在りし日のつらかった日々を思い起こしながら、遊女が舞を見せています。
【菩薩になって昇天】
遊女は西の空に普賢菩薩となって昇天します。
まさにその場面です。
【演じ終えて】
「江口」はとてつもなく大きな作品だと思いました。
それは男の観点から見た女性観の現れだと思いますが、
苦境の生活に身を投じて生き続けた遊女たち。
そんな人生を全うした遊女を助けてあげたい、
その想いが遊女を普賢菩薩に変身させたのだと思います。
これが作者観阿弥と世阿弥の狙いだと思いました。
ありがとうございました。
※写真撮影 駒井写心職工(駒井壮介氏)