第18回青葉乃会 平成30年6月17日(日)
「この能は、色ある桜に柳の乱れたるようにすべし」
世阿弥『申楽談義』より
庭の掃除人だった老人が、あろうことか天皇の妃(女御)に恋をしてしまった。
叶うはずもない恋だったが、老人の一途な思いはもてあそばれ、やがて老人は憤死してしまう。
恋の執念は悪霊となって現れ、女御を責め立てるものの、最後は女御の守り神となることを約束して物語は終わる。
【舞台背景】
時:平安後期(白河院の時代)
所:白河院の御所の庭先
季節:菊の咲く秋
【登場人物】 (登場順に)
ツレ 白河院の女御(にょうご)
ワキ 白河院に仕える臣下
アイ 臣下の従者
前シテ 庭掃きの老人・山科荘司(やましなのしょうじ)
後シテ 山科荘司の怨霊
【あらすじと舞台の流れ】
・前場
幕より後見が重荷を持ち舞台正先に置く。
まず女御が登場し、脇座にて床几にかかる。
次に臣下が現れ、白河院の庭を掃除する山科の荘司という老人が、女御を恋したという噂を聞きつけ、
従者に命じて荘司を呼び出す。
恋に陥った老人・荘司は、心鬱なまま臣下の前に現れる。
臣下に真相を問われた荘司は、初めは、はぐらかすのだったが、
臣下に美しく飾られた荷を見せられ、
「これを持って庭を巡るなら、女御は姿を見せる」と言われると喜び、荷を持ち上げようとする。
しかし中身は巌を飾った重荷だったので持ち上げることはできない。
なぶられたことを知った荘司は、嘆き、恨みを残して憤死する。
・後場
憤死した老人のたたりを恐れる臣下は、女御を荘司の亡くなった庭に連れて行き、荘司の死骸に対面させる。
哀れに思った女御は、「恋よ恋、わが中空になすな恋」(恋は恐ろしいもの、軽はずみな恋をしてはいけない)と悔やみ、
その場を離れようとするも、女御の体は荘司の怨霊に憑りつかれ動かなくなってしまう。
荘司の怨霊が現われ、巌の重荷を持たされた恨みを述べ、激しく女御を責め苦しめる。
しかし最後には怨念を捨て、我が恋の迷いを弔ってもらえるならば、女御の守護神となることを約束して姿を消す。
【作者世阿弥の言葉】
「この能は、色ある桜に柳の乱れたるようにすべし」
この言葉の意味
(この能は、美しく咲いた桜に青柳の糸が乱れかかっているような風情、
すなわち、美しさに強さが交錯する趣き、といったものを表現するがよい。)
日本の名著 世阿弥 西野春雄訳 中央公論社
色ある桜=女御=美しさ
柳の乱れ=老人・荘司=強さ
このような方程式が成り立つ