逗子能「雷電」の紹介―続―
逗子「雷電」、舞台写真を紹介しながら能「雷電」の後半の物語を解説してみます。
そのまえに！
菅原道真＝管丞相（かんしょうじょう）
このことについて説明しておきます。
管丞相は菅原道真の代名詞のように使われ、能「雷電」、また浄瑠璃の「菅原伝授手習鑑」でも道真という名は使われず、管丞相、または丞相という名で出てきます。
なぜなのでしょう？ 私なりに”管丞相”という名前を解析してみたいと思います。
管丞相の『丞相（しょうじょう）』とは、律令制度における官職名の唐名で、日本語に直すと『大臣』のことになります。
当時の律令制度のトップは『太政大臣』、その次が『左大臣、右大臣』。
トップの『太政大臣』は名誉職だったので不在が多く、実際は大臣がトップで、今でいうと首相（内閣総理大臣）の地位になります。
この『左大臣、右大臣』を唐名では『左丞相、右丞相』といい、道長は右大臣にまで昇進したので、右大臣道長＝右丞相道長となったわけです。
菅原道真の菅原家は”菅家”と言われていましたので、菅原道真＝右大臣道長＝右丞相道長＝管丞相となるのです。
これで管丞相の名前が解明できました。
道長は死後も最高官位の管丞相の名前のままで呼ばれ続けています。それは、
後世の人々にとって、学問の力で大臣にまで昇進したが、しかしながら不運な死を迎えた。そんな道長に対する同情や哀惜の想いからではないかと思います。
前置きが長くなりました。
能「雷電」、後半場面の紹介です。
道真の怨霊は雷となって荒れ狂い、帝のいる御所を責め立てます。
後シテは道長の怨霊が雷として現れます。
装束付け 上から
・赤頭（あかがしら） 荒ぶる神々、魔者などに赤頭を使いますがここでは雷の光、荒々しい勢いを表すにのにはぴったりです。
・光 頭をよく見るとキラキラと光るものがぶら下がっています。これはピカッと光る稲妻を表現しようとする狙いなのです。「雷電」のほか「賀茂」の後シテの別雷の役の時に使います。
・面 顰（しかみ）極端に怒り顔をした鬼神の面。雷の恐ろしいまでの勢いが感じられます。
・着付け 赤黒段に雲盤（うんばん）に稲妻模様厚板 雷の役にふさわしく雲と稲妻の模様があしらわれています。
・打ち杖 相手を攻撃する時の、いわゆる武器です。紺地、赤地、萌黄地と三種類ありますが、雷の役で強い紺地のものを持っています。
・狩衣 本来なら鬼畜物用の法被（はっぴ）を使うのですが、道真は管丞相という最高官僚でしたので、高貴な人物や神々に使用する狩衣を使用しています。
・腰帯 狩衣を留めている腰帯ですが、オレンジ色の下地に色変わりな飛雲が三つ刺繍されています。これも雷の役にふさわしいものです。
・半切 袴の一種で、赤字に巻き雲、稲妻文様。これも雷役にはぴったりです。
装束の工夫としましては、雷だらけの出で立ちになっていますね！
この写真の場面は、道真の怨霊＝雷が橋掛かりの欄干に足をかけ、怨霊を鎮めるために現れたワキの僧正を見込んでいるところです。
さてこれから場面は平安京の内裏に移ります。
怨霊の雷は内裏に次々と雷を落としてゆくのですが、そのあとを僧正は追ってゆき、怨霊と僧正は内裏を駆け回り、いたる所で拍子を踏みます。
この拍子は「ピカーゴロゴロ」と雷を落としていることを表しています。
写真は、ますます勢いづいた雷が両袖を巻き込み、このすぐ後に「ドンドンドン・・・・・」と拍子を踏みます。
市松模様の台を一畳台というのですが、「雷電」では舞台に平行に二つ並べて置かれています。
この二つの台を入れ替わり移ってゆくのですが、この台を内裏の中の建物とみなしています。
その内裏での移動の道順は、
紫宸殿（ししんでん）→弘徽殿（こうきでん）→清涼殿（せいりょうでん）→梨壺（なしつぼ）→梅壺（うめつぼ）→昼御座（ひのおまし）→夜御座（よんのおとど）→雷壺（かみなりのつぼ）
平安京内裏図→
こちら （昼御殿と夜御殿は清涼殿の中にあります）
曲の終末
道真の怨霊となった鬼神は、生前の恩師だった僧正と争うのですが、しかし僧正がいる所には雷を落せず、ついには祈りに負けてしまいます。最後は天満天神大自在という称号を与えられ、道真の霊は鎮められて虚空に上がって終曲となります。
