平成30年1月13日(土) 銕仙会定期能〈1月〉
前回のブログの続きです。
面箱持ちによって面箱さばきも終わり、全員が所定の位置に着きました。
翁は物語性はありません。天下泰平を祈る祈祷の儀式だということを念頭に入れてください。
①【翁と地謡の掛け合い】(祈祷のはじまり)
笛の吹き出しから始まり、三人の小鼓の連調が囃されます。
始まったとたんにどことなく舞台は荘厳な空気に!
しばらくして翁と地謡の謡の掛け合いが始まります。
翁「とうとうたらりたらりら。たらりあがりららりとう」
地「ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりとう」
翁「所千代までおわしませおはしませ」
地「我等も千秋さむらはう」
翁「鶴と亀との齢(よわい)にて」
地「幸いこころにまかせたり」
翁「とうとうたらりたらりら」
地「ちりやたらりたらりら。たらりあがりららりとう」
<文意>
「とうとうたらり・・・」と呪文をと唱え、
「所千代まで・・・」長寿を祝う今様(七五、四句)が謡われる。
②【千歳の舞】 (千歳が露払いとして場を清める)
千歳「鳴るは瀧の水。鳴るは瀧の水。火は照るとも」
地「絶えずとうたり ありうとうとうとう」
千歳「絶えずとうたり 常にとうたり」
ー千歳の舞ー
千歳「君の千歳を経(へ)んことも 天つ少女の羽衣よ 鳴るは瀧の水 火は照るとも」
地「絶えずとうたり ありうとうとうとう」
ー千歳の舞ー
<文意>
当時流行していた、
「うれしや水 鳴るは瀧の水 日は照るとも 絶えずとうたり」(平家物語 巻第一『額打論』)
を引用し、
いくら日が照るとも瀧の水はどうどうと鳴り響いているように、わが君も限りなく豊かに栄えることだ。
若者らしく颯爽と舞を舞い、場を清めます(一の舞)
※千歳一の舞の半ばで、翁大夫は神体である白式尉の面をかけ、神に変身します。
「君が代は天の羽衣まれにきて なづとも尽きぬ巌ならなむ」(捨遺集 読人知らず)
を引用し、君の長寿を祝う。
再度清めの舞を舞う(二の舞)
③【三番叟と対面】(翁は神に変身している)
白式尉の面を付けた翁は、興が乗じて、今まで離れていた三番叟に向き、両手を広げて立ち近づき、舞台半ばで正面に向きを変えて天拝します。
※天拝とは両手を顔の前で合わせ上半身を反らして天を見込む型
舞台でお辞儀をしていた三番叟も立ちあがり翁の方に向き、二人は間近に対面する。
このあと三番叟は橋掛かりの狂言座に行き下居する。
翁「総角(あげまき)や とんどや」
地「尋(いろ)ばかりや とんどや」
翁「座していたれども」
地「参ろうれんげりや とんどや」
<文意>
催馬楽の総角(あげまき)の歌
「総角や とうとう 尋(ひろ)ばかりや とうとう さかりて寝たれども
まろびあひにけり とうとう か寄りあひけり とうとう」
※総角(あげまき)ー飾り紐のことで、何本かの紐を寄り合わせて結ぶ。
※尋(ひろ)ー両手を広げた長さの単位
(少し離れて寝ていたのに、ごろごろと転がって総角のように寄り添って寝ている)
これは、素知らぬふりをして離れていた男女が共寝しているとはやした歌
ここでの意味は
総角の歌のように、一尋はなれて座いていたが、そなたの方に参ろうではないか、となります。
④【神(翁)の祈祷】(神に変身した翁は、再び両手を広げ祈祷を始める)
翁「ちはやぶる、神のひこさの昔より 久しかれとぞ祝い」
地「そよや りちや」
<文意>
神代の昔から、幾久しく栄えるようにと祈っている。
地の「そよやりちや」のところで、翁は地を見込み地拝する。
再び両手を広げ祈祷を続ける。
翁「およそ千年の鶴は、万歳楽と謡うたり。また萬代の池の亀は、甲に三極を備えたり。
渚の砂、さくさくとして明日の日の色を朗じ。瀧の水、玲々として夜の月鮮やかに浮かんだり。
天下泰平。国土安穏。今日のご祈祷なり。ありはらや、なぞの翁ども。」
地「あれはなぞの翁ども。そやいづくの翁とうとう」
翁「そよや」
<文意>
千年を生きる鶴は万歳楽と謡う。また万年を生きる池の亀は、甲羅に天・地・人の三才を現わしている。
渚の砂はさらさらとして朝日の影を映している。瀧の水は光明と輝き、夜の月が鮮やかに水面に浮かぶ。
天下は泰平、国土は安穏。これをもって今日のご祈祷とする。
あれはいったいどこの翁だ、そもそもどこの翁だ。
⑤【翁の舞】天・地・人の拍子を踏む荘厳な舞
翁は「そよや」と謡乍らここでも地拝をします。再び両手を広げ、三挺(さんちょう)の小鼓の一音、一音に足を合わせて歩み出し、
目付柱前で天を仰ぎ『天』の拍子を踏み、次に脇柱の前で地を屈み見、『地』の拍子を踏みます。このあと舞台を回り中央で『人』の拍子を踏み舞い終えることになります。
⑥【舞留めの祈祷】
『人』の拍子のあと、再び両手を広げ祈祷の祝辞を述べます。
翁「千秋万歳の喜びの舞なれば、ひと舞舞はう、万歳楽。」
地「万歳楽」
翁「万歳楽」
地「万歳楽」
<文意>
千秋万歳と長寿を祝う舞なので、ひと舞い舞った。
祝祷の言葉・万歳楽を繰り返し舞い納めとしている。
⑦【翁帰り】翁と千歳は幕へ引く
翁は面箱の前で白式尉の面を外し面箱の収め、神に変身した姿から元に戻ります。
このあと舞台正面に歩み出で下座し、再びお客様に向かって深々と頭を下げ礼拝します。
後は小鼓の演奏に合わせ、千歳を引き連れ幕へ引く
これより三番叟の舞になります。