第16回青葉乃会終了
12月18日、第16回青葉乃会を無事に終える事が出来ました。
ご来場いただきました皆様方には、心より御礼申し上げます。
会が終わってずいぶんと日にちが立ってからのご挨拶となり、大変申し訳ございません。
年が越さないうちにと焦っていたのですが、それだけは何とか間に合いそうです。
今回は、仕舞「誓願寺」、狂言「鏡男」、能「砧」という番組でしたが、
じつはこの番組立てには、私なりの思惑がありました。
能「砧」は愛を失った妻の孤独死といえるならば、狂言「鏡男」は夫の愛情が引き起こす妻の嫉妬の物語。
仕舞「誓願寺」は多くの男性と波乱万丈の人生を送った女性が菩薩となって昇天する祈りの物語。
「恋に悩む女」をテーマにした選曲でした。
まず最初に女性に対して祈りを捧げ、夫婦の喜劇を見せ、最後には報われなかった妻も成仏するという流れの番組です。
自分なりにはとても面白い選曲だと自負しておりました!(笑)
〈「砧」を演じ終えて思うこと〉
演じる側としてはとてもやりがいのある作品ですが、相当に難しい作品でした。
まずは作者・世阿弥の機微に触れること、それをしっかり理解して能の技術を通して「砧」を演じ切ること。
世阿弥自身が述べているのですが、「砧」はかなり高度な技術が要求され、そのうえで成り立つ作品なのです。
自分なりにはしっかり取り組んだつもりですが、まだまだ脆いところがありました。今後の課題にしたいと思います。
〈詞章を配布したことについて〉
今回は「砧」の詞章をお客様に配布しました。
「砧」は世阿弥の最晩年の作品とされ、とても美しい文章で描かれていますが、難解な言葉も多く使われています。
そのため文字を見れば、また、漢字を見れば言葉の印象が伝わるのではないかと考えたのが今回の試みでした。
この詞章の配布はとても好評でした。
しかも場面ごとに番号を振って段落分けを行っていましたので、舞台展開はおおよそ理解していただけたかと思います。
しかし、しかしながら、予想していたことが見事に的中してしまいました。(-_-;)
面からの視界は客席がピンポイントで見えてしまいます。
詞章が書かれたプリントで言葉を追いかけると、プリントからは目が離れなくなってしまいます。
仕方がないことだと思います。
これは言葉が聞き取れないという能の宿命がなせることなのですから。
ではイヤホンガイドにすればどうか!
新宿御苑の薪能では取り入れられていますが、3千人規模の公演でしたらともかく、舞台の緊張感を共有する能楽堂では私は大反対です。
能には「せぬひま」ということがあります。何もしない無の時間がある表現を行うのです。
その”無”の時にイヤホンガイドで説明が流れれば、これこそ能が能ではなくなってしまいます。
能の楽しみ方は個人によって違ってきますが、多くの問題を残していることは事実です。
さて、舞台写真を振り返りながら簡単に「砧」の説明をさせていただきます。
【前場】
・シテの登場(唐織着流し姿)
面は「深井」、色無し唐織を着ていますので中年の女性という設定です。
待てど待てど夫は都に行ったきり帰ってこない。
孤閨のつらさをつぶやいているところです。
銕仙会が所有する装束ですが、面も唐織も特上品を使わせていただきました。
・砧の段(砧を打ち、心を慰めている場面)
着ている唐織の右袖を脱いでいます。(物着という場面で、舞台上でこの姿に変身します)
これを片袖脱ぎというのですが、このことによってこの女性は心が乱れている”狂女(きょうじょ)”、または、仕事をしている(砧を打っている)女という能の約束事です。
「砧」の前場で最も盛り上がる場面です。
唐織に注目すると、すだれ文様とかじの葉の文様が段になっています。高貴な女性という印象が与えられます。
【後場】
・死した妻の亡霊の登場
砧の作り物が正面に移され、砧を打つ行為が地獄で鬼に打たれることを兼ねた地獄の象徴として砧の作り物が置かれています。
亡霊は杖を持ち両手を胸の前に合わせています。
杖を持っている姿は、亡霊という能の約束事の一つです。
胸に両手を合わせ苦しみに耐えている姿がこの場面になります。
面は「痩女(やせおんな)」、白練の装束を壺織という着方で着ています。
下は浅黄色の大口(おおくち)を履いています。
砧の後の登場には太鼓を入れる、入れないの二通りのやり方があります。
太鼓入りの時にはこの大口=袴をはき、太鼓無しの時には大口をはかず、着流し姿の壺織となります。
チラシをご覧ください。
まったく同じ場面なのですが、チラシは大口をはいていません。
チラシの写真は先代の観世銕之亟先生の「砧」ですが、おそらく「梓之出」という小書き(特殊演出)をつけ、太鼓無しの演出をされたのではないかと思います。
私の写真は苦しみが露骨ですね。面が下を向きすぎのようです。
・最後に
「砧」をなんとか終える事が出来ました。
ご来場いただきました皆さま、このブログを最後までお読みいただきました皆さまには感謝申し上げます。
私は来年には還暦を迎えます。
人間としては未成熟ですが、年だけは還暦に達してしまいました(笑)
能の最高峰は「老女」とされていますが、来年の青葉乃会では、
還暦という人生の節目としまして、「卒塔婆小町」という老女物に挑戦させていただきます。
十分に心して務めたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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第17回青葉乃会 柴田稔還暦記念
能「卒塔婆小町」
平成29年9月18日(月・祝) 午後2時開演
於 宝生能楽堂
どうぞ皆さま、よいお年をお迎えください。