昨日、6月27日付けの産経新聞に、「八世観世銕之亟七回忌追善能」の記事が掲載されました。新聞の力は凄いですね。朝から問い合わせの電話が殺到していたようです。
私もこのブログで追善能のことを取り上げましたが、少しは効果があったのでしょうかね(汗)
その記事の中で現銕之丞師が先代のことについて、
「能が好きで、能のことばかり話していた。晩年は体が弱っているのに、舞台が好きで飛び回っていた・・・」と話されています。
確かに先代の銕之亟先生の口から、能や芝居以外の話を聞いた記憶がありません。
例外はあってもごくごくまれなことです。
人とお話されるのがことのほかお好きで、マイクを持ったら離さない人がいますが、マイクもないのに話しをしだしたら止まりません! われわれ弟子は一方的に聞き役でしたが、内容はいつも能のことばかり。お素人の稽古日でも、お弟子さん相手に能の話でもり上がり、気が付けば夕刻になっていたこともざらにありました。ご家庭でも会話の話題はやはり能のことが中心だそうです。頭の中は能の言葉でぎっしり埋め尽くされていたようで、ほかのことが入る隙間がなかったみたいです。いつも能と向かい合って生きておられたのでしょうね。
同じご兄弟でもお兄様の榮夫先生は、朝にはいつもスポーツ新聞を手に楽屋に入られます。その新聞は必ずデイリィースポーツで、これはスポーツ記事の大半が阪神タイガースの情報が書かれている虎ファン必読のものです。榮夫師はわれわれ虎キチのボス的存在です!
榮夫先生とは気軽に舞台以外のことを話せるのですが、先代の銕之丞先生はそうはいきません。宴席でも話題が能の事から離れると、「お前達はなにのためにここに集まっているのだ!」と雷が落ちます。本当に芸一筋の人生を歩んでおられた、そのように思います。
私が書生を出たばかりの頃、このようなことがありました。
朝に大阪で申し合わせ(リハーサル)、夜には東京で能の公演、これが3日続きました。
夜の東京での公演が終わると、いつものように宴席が待っています。帰宅するのは決まって午前様。翌朝朝一の新幹線で大阪へ向かいます。私はこの3日間は先生と同行でした。
たいがいの人は、「明日早いので今日は失礼します」といって宴席を断られるのですが、先代は最後の最後までお付き合いされます。明日のことより、今日能が終わって、そのことについて話すこの時間を大切にされていました。私なんかこんな時よく居眠りしてしかられたものです。(汗)
こんなことをよく話されていました。
「いつも最高のコンディションで能が舞えると思ったら、大間違いだ。どんな状態でも、たとえ最悪の状態でも、ベストな能を舞えないと駄目なんだ」 と。
これを今日の名言にします。