2月28日 逗子能
<「羽衣」について>
「羽衣」は能の中でも最も上演回数が多く、多くの人々に親しまれてきた作品です。
その理由としてあげられるのが、日本各地に伝承されている羽衣伝説を取り上げていること、それと天女の舞の美しさにあると思います。
また三保の松原の美しい春の情景が、それこそ美しい日本語で語られてゆきます。
【能・羽衣】
時:春の朝
場所:三保の松原
登場人物
ワキー漁師
シテー天女
【ざっくりなあらすじ】
春のある朝、三保の松原の漁師が松の枝にかかっていた天人の羽衣を拾った。そこに天人が現れ衣を返してくれというが漁師は返さない。羽衣を失った天人はみるみるうちに衰え、かわいそうに思った猟師は、天上の舞を見せてくれるのであれば衣を返そうという。天人は喜び、羽衣を着て舞を舞う。天人の舞によって三保の松原の情景は、まるで天上の世界のそのもののように映った。やがて天人は富士の高嶺へと舞い上がり、大空の霞にまぎれて消えていった。

「三代目・羽衣の松」
【能「羽衣」の特徴】
・「羽衣」の舞台はなぜ三保の松原!?
日本各地に伝わる羽衣伝説の中で、能の作者は「羽衣」の舞台背景をなぜ三保の松原に選んだのでしょうか。
富士山と三保の松原は古くから和歌や絵画にも取り上げられ、景勝地として有名だったことがあげられますが、その理由は天女の舞う「東遊の駿河舞」を能の中に引用するためだったのです。
「東遊」は雅楽の組曲のことで、「駿河舞」は「東遊」の中の一つとされ、天女が月の宮殿で舞う舞を地上で初めて舞ったのが「駿河舞」といわれています。
「駿河舞」の伝承は、安閑天皇(466-536)の御世に駿河の国・宇土の浜で天女が舞を舞ったとされるのが記録として残っているようです。
宇土の浜は三保海岸より少し南に下ったところにあります。
能の作者は「東遊の駿河舞」の起こりを宇土の浜から景勝の地・三保の松原に置き換えてこの作品を作ったのだと思います。
それによって、うららかな三保の松原の景色、そこから眺める富士山と駿河湾の景色を美しい日本語で描かれた「羽衣」が誕生しました。
・漁師がすぐに羽衣を返してしまうのはなぜ!?
ワキの漁師が衣をすぐに天人に帰してしまうことで、「羽衣」には素晴らしいドラマが生まれています。
能「羽衣」をワキの漁師の視点で見て行けばそのことがよく分かります。
世にも美しい衣を拾った猟師は、家に持ち帰り家宝にしようとします。
漁師は天人に呼び止められ、それは天人の衣だから人間が持つものではない、私は衣がなければ天上に帰ることができない、早く返しなさいと言われる。
この衣が天女のものだと聞かされた漁師は、この衣を国の宝にする、衣を返すことはできない。もとより私は漁師という心のない人間なのだからと言います。物欲を強く持つ人間として漁師が描かれているのです。貴族的であってはダメなのです。
羽衣を失った天女は天上に帰れないどころか、天人に五衰(ごすい)の症状が現れてきます。『天人の五衰も目の前に見えてあさましや』
天人五衰とは仏教の言葉で、
「衣装垢膩(いしょうこうじ)」 着ているものが汚れる
「頭上華萎(ずじょうかい)」 頭に着けている花がしぼむ
「身体臭穢(しんたいしゅうえ)」 体が悪臭を放っている
「腋下汗流(えきかかんりゅう)」 脇の下から汗が流れている
「不落本座(ふらくほんざ)」 弱って座っていることさえできない
五衰の相が現れた天人は空を見上げ、早く天上に帰りたいと涙を流している。
そのようすにさすがの漁師も心を動かされ、天女に羽衣を返すことにします。
しかし衣を返す代わりに、ここで天人の舞楽を見せてほしいと交換条件を出します。
この時点で漁師は人間的に大変身したのだと思います。
天人の衣を持っていれば、自分は大金持ちになれるかもしれない。その欲望と引き換えに選んだのが、天女の舞を見ることだったのです。物質の恵みより心の恵みを選んだことになります。「心なき」が「心ある」人間に変身したのです。
天女は衣を返してくれと言いますが、衣を返したら舞を舞わないで天上に帰ってしまうだろうと漁師に言われ、天女の返す言葉が「羽衣」で有名なセリフです。
『いや疑いは人間にあり、天に偽りなきものを』
なにかを疑うというのは人間の特性で、疑うからこそ人間であり得る。それがあるゆえに人間は悟ることができない。
猟師は天人から、天人と人間の違いはっきりと知らされたのです。
このことを知らされた漁師は、本当に「心ある」人間に生まれ変わったのです。
この漁師の心の変化が「羽衣」の大きなドラマになっています。
ワキの漁師の立場になって、能「羽衣」を観るのも楽しいことかもしれません
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