第14回青葉乃会「道成寺」
~舞台生活30周年記念~
道成寺縁起絵巻
第14回青葉乃会の公演は、おかげさまで完売となりました。
チケットをお求め頂きました皆様方には、心より御礼申し上げます。
現行の「道成寺」は、観世信光作の「鐘巻」を大胆に切り詰め、「乱拍子」を中心に改作された作品とされています。
「鐘巻」と「道成寺」の違いについては、折を見て検証していきたいと思いますが、まずは「道成寺」について私なりに紹介していきたいと思います。
道成寺の構成
・主題 恋に破れた女の激しい恨みと、その死後の執念の恐ろしさを描く
・時 桜が満開な3月
・場所 紀伊の国(和歌山県)鐘巻の里、道成寺の境内
・登場人物
前シテ 白拍子(化身)
後シテ 蛇体(女の霊)
ワキ 道成寺住職
ワキツレ 従僧(二人)
アイ 寺の能力(二人) 能力:寺で力仕事をする下級の僧
・あらすじ
紀伊の国・道成寺では久しく釣鐘がなく、この度釣鐘が再興されることになります。今日がその鐘供養の日。
女人禁制と触れたにもかかわらず、一人の白拍子がやって来ました。
寺の能力に舞を舞って鐘の供養をしたいと申し出ると、能力は独断で女を境内に入れてしまいます。
白拍子は舞を舞い始め、やがて夜も更け、人々が眠ったすきを狙って鐘を落とし、その中に姿を隠してしまうのでした。
能力から事態を知らされた住職は、昔この寺で起きた事件を語りだします。
熊野詣をする山伏が、常宿としていた家の娘に慕われ求婚された。山伏は驚いて家を飛び出し道成寺まで逃げてきて、住職たちは鐘の中に山伏を隠した。山伏を追う娘は狂恋のため大蛇になって日高川を渡りこの寺に到り、鐘に巻き付いて男を殺してしまったというのです。
先程の白拍子はその娘の化身だろうと、住職たちが鐘に向かって祈りを始ると、鐘は再び上がり、中から蛇体が現れます。
蛇体は激しく僧に挑みかかりますが、祈祷の力に負けて日高川へと飛び込み姿を消すのでした。
・舞台進行(①からは道成寺の詞章に対応しています)
⓪囃子方、地謡の登場 狂言方鐘後見が鐘を担いで現れ、シテ方鐘後見が鐘を吊る。
①ワキの登場 紀州道成寺の住職(ワキ)が鐘供養の旨を告げる。
②ワキ・アイの対応 住職は寺の能力(アイ)に女人禁制を申し渡すし、能力はその旨を触れる。
③シテの登場 白拍子の女(シテ)が鐘供養を聞き及んで道成寺にやって来る
④アイ・シテの対応 女は供養の舞を理由に参詣を乞い、能力は一存で女を入場させる。
⑤シテの前奏歌 女は烏帽子を着け白拍子の姿となって、舞歌を始める。
⑥シテの舞事 乱拍子、急ノ舞
⑦シテの中入り 夜が更け、女は人々の眠りを窺い鐘の中に消える。
⑧アイの立働き 鐘の落下に驚いた能力達は、住職に報告し叱責される。
⑨ワキの物語 住職は、恋慕のあまりに大蛇と化した女が、道成寺の鐘に隠れた山伏を追って焼き殺した因縁を語る。
⑩ワキの待ち受け 住職は従僧と共に祈祷すると、鐘の中から大蛇(後シテ)が姿を現す。
⑪ワキ・シテの抗争 大蛇の威嚇と僧たちの祈祷の抗争の果てに、大蛇は祈り伏せられて日高川に敗退する。
・見どころ
⓪鐘を吊る作業
②能力が女人禁制を触れたあと、舞台を一周する「鐘楼固め(ろうかくかため)」
③シテが登場する張りつめた緊張感を持つ出囃子(習ノ次第)
⑥小鼓とシテの気迫の静止芸「乱拍子」
⑥「乱拍子」のあとの一変した激しい「急ノ舞」
⑦シテの鐘入り
⑧能力のユーモアな会話
⑨重い習い事のワキ語り
⑩鐘が上がって現れる大蛇の姿
⑪シテとワキの格闘「祈り」 橋掛かりで見せる「鱗落とし」
道成寺詞章
(この詞章は国立能楽堂発刊のパンフレットを引用させていただきました)
特徴
○シテ方、ワキ方、狂言方、囃子方(笛・小鼓・大鼓・太鼓)それぞれの役で重い習い事となっており、洗練され技術の集結によって構成された作品。
○鐘後見の配置(釣り鐘を運び、落とす役目)
シテ方鐘後見5人
主後見―鐘の最高責任者、最後一人で鐘を落とす
副後見―主後見の補佐、主後見が鐘を落とす間際まで鐘を支える
重り役―主・副後見それぞれの体を固定するための重り役、後見の腰に全体重を乗せる
綱さばきー釣り鐘の綱を結びさばく役
狂言方鐘後見4人
釣り鐘を太い竹の棒に通し、舞台まで運ぶ。終曲に再度出てきて鐘を幕に引く。
鐘の綱を天上の環に通す役目
○全員が裃を着用
シテ方後見3人、鐘後見(主・副)2人、囃子方4人は長裃を着用
囃子方4人のそれぞれの後見は裃を着用
○舞台出演総人数が最高―34人
シテ方(シテ1人、地謡8人、後見3人、鐘後見5人)17人
ワキ方 3人
狂言方(アイ狂言2人、鐘後見4人) 6人
囃子方(4人、後見4人) 8人
・メモ
「道成寺」は観世信光作の「鐘巻」を大胆に切り詰め、「乱拍子」を中心に改作された作品。
改作の意図は、作品の物語性よりも、各役の技術の極めを舞台で表現しよとしたところにあります。
小書き「赤頭」では、乱拍子は通常左回りの三角形(鱗型)の形で動いていきますが、さらに右回りの三角形の動きも加わります。(鱗返し)
後場の装束が、常の鬘から赤頭に変わり、それに伴い装束付けも常とは違う形での演技となります。