能「龍田」は、古代より有名な奈良・龍田の紅葉(もみじ)がテーマになっています。
能には草木が主人公になる作品が多くあり、そのほとんどが主人公はその草木の精が現れ、咲いては散りさる自然界の定めに人間の儚さ、哀れさを重ねて描いています。
しかしこの「龍田」は違います。
あまりにも美しい龍田の地の紅葉(もみじ)を称賛し、その紅葉を神木とする龍田明神の威徳が描かれているのです。
能「龍田」の舞台経過①
・一人の旅僧の登場
諸国を巡る一人の旅僧が奈良での参拝を澄ませ、河内の国へと旅をするところから能「龍田」は始まります。
「われこの程は南都に候らいて。霊仏霊社残りなく拝み巡りて候。これより龍田越えにかかり。河内の国へと急ぎ候。」 (能本より)
この僧は、南都→西大寺→秋篠→龍田川 と道行を謡っています。
地図でこの軌跡をたどっていますと、
まず南都は平城京だとすると、次に平城京の西にある西大寺を経たことになります。
西大寺は先月奈良を訪れた時立ち寄りました。
西大寺
余談ですが、能「百万」ではこの西大寺の境内にある柳の下で我が子と離ればなれになったとしています。
それがこの場所です。謡跡碑が立っていました。
西大寺を通過した僧は秋篠を歩きます。
秋篠とは生駒山脈の東側の裾野一帯をいい、和歌の歌枕に読まれるほど有名な地でした。
(「秋篠や 外山の里や 時雨らむ 生駒の岳に 雲のかかれる」 西行法師)
そして紅葉の有名な龍田川へと到着します。
龍田川
当時の龍田川は、今の龍田の地に流れる大和川だそうで、先日訪れた龍田川は大和側にそそぐ川で、近年になって紅葉の名勝として名付けられたそうです。
おそらく都市開発の影響で、紅葉の名所がこのあたりだけになったのかもしれません。
でもこの風景から、当時の紅葉した龍田川の片りんを窺えると思います。
能「龍田」では、龍田川を渡ろうとした僧が一人の女性に呼び止められます。
次回は能「龍田」の第二場面を紹介します。