8日の土曜日、国立能楽堂で能「采女」の公演がありました。
采女とは宮廷に使えた女性のことを言います。天皇と契りをもった采女が、かなわぬ恋ゆえに入水したという悲話をテーマにした曲です。
シテは浅見真州師 地頭は野村四郎師、大鼓は亀井忠雄師と、超ベテランの組み合わせです。能通の方にはこの名前を見ただけで、当日の様子がお分かりになるかもしれません!?
所要時間、2時間15分。
今年になってからの最長記録です!(私が出演した舞台のなかでですが)
2時間を越すと、集中力を持続するだけでたいへんです。おまけに足は痛いし!
終われば、気力体力ともへとへとです。
ご覧になっているお客様も大変だと思います。お互いに気力・体力の勝負です。
でもあのときのお客様はほんとうに最後まで熱心にご覧になっておられました。感謝!感謝!
[雑談ですが、われわれは舞台に出る前に、
今日はどのくらいかかるだろうかと、よく話題にだします。
この日は私の予想が的中しました!(こんなこと少しも自慢になりませんが!!)
ここでいう能の所要時間とは、地謡が舞台に出てからと、入ってくるまでの時間のことです。]
今日は能[采女]のことではなくて、当日のパンフレットに[拍手]について書かれていましたのでそれを紹介します。
『なんでも相談室』というコーナーで、
[Q] 能や狂言を観て拍手をして良いのでしょうか。またほかにどのようなマナーが必要なのでしょうか?
[A] ・・・・(略) 拍手をするしないは個人の判断で良いと思います。
ただし、拍手をする場合でもマナーは必要でしょう。シテの退場、ワキの退場、囃子方・ 地謡の退場とその都度拍手をしたり、有名な狂言方が登場したときに拍手が起きたりと、 最近は止めどが無くなっているように思います。
能ならば、シテやワキの退場を静かに見送って、囃子方や地謡が退場する際に一度だ け、狂言ならば演技を終えてシテやアドが静かに退場するときに心を込めて拍手をする のが良いと思います。
幕がない舞台で各役ごとに退場して行くので拍手したくなるのでしょうが、最後の役者が 退場するときが幕が下りるときと考えれば、一度でよいということがお分かりいただけるか と思います。
・・・・(略)。
回答者・松本雍(能楽研究家)
ここでは能を観終わったあと、拍手するのであれば、囃子方や地謡が退場する時に、つまりいちばん最後に一度だけすればよいとされています。
このことは観能マナーとしてよく提言されていることで、能の余韻を最大限に残す、いちばん無難なところでの拍手のようです。しかしこれも決まりごとにすると良くありませんし、ここで拍手をしてくださいと強制もできません。
たとえば切能で、鮮やかに激しく立ち振る舞ったシテが留め拍子を踏んだあとには、間髪いれずに拍手があってもしかるべきだと思いますし、子方が長時間の舞台をがんばって勤めた、そんなときには子方が幕に引くときに大きな拍手を送ってあげても良いのではないかと思います。観ている方の自然な気持ちの表れ、それも大切にしなければ行けないと思います。
その場の状況を考えて拍手するのが良いわけですが、そうなると先陣を切って拍手するにはかなりの勇気が要りますね! 時にはひんしゅくを受けることも!
ウーム、むずかしい問題だ!
やはり最後に一度だけ、ということになるのでしょうかね。
さて、この日の「采女」の舞台ではどうだったかというと、
この能の最後は、入水した采女の霊が仏徳によって成仏し、なおも僧に供養を願いながら水底に消えていくという、とても静かな感じで終わります。
で、それをご覧になったお客様の拍手は・・・
2度ありました。
・シテ、ワキが幕に退場するとき
・囃子方、地謡が退場するとき
おそらくどなたかが引導されたのでしょうが、
われわれにとっては何の違和感もなかったです。
なかには、一度目の拍手をうるさいと思った方もおられると思いますが・・・・
どうやら拍手のことは決め付けることは出来ないようです。
最終的にはその場の雰囲気が決定権を持っているのかもしれません。
私事で言うと、学生時代に数多くの能を観ましたが、一度も拍手をした覚えはありません。余韻を楽しんでいたというところもありますが、能の持つ独特の雰囲気に、拍手する必要性を感じなかったのかもしれません。
演能後の拍手はなくても良いと思います、が、この拍手が少なければ、演者側の立場としてはなんだかとても心細い思いをするもの事実です。
これは矛盾極まりないことですが、正直な感想でもあります。
今度皆さんが能をご覧になったとき、拍手をされたかどうか、またどこで拍手をされたか、拍手についてどのように感じられたか、お便りいただければありがたいです。