女性にも声変わりがあるそうです。
少し前のことですが、昨年11月に長崎の浦上天主堂での公演が行われました。

被爆した長崎の復活と再生を題材にした能です。
前場では自ら被爆にあいながらも懸命に人々を救助する一人の信女のことが語られ(実はこの信女は聖母マリアの化身だったという設定なのですが)、後半は聖母マリアが現れ、被爆した犠牲者の霊を慰め、天国での平安を祈り舞を舞って昇天してゆく、そんな物語です。
教会の中の祭壇に舞台をこしらえ、背後にはキリストの磔刑像があります。また周りのステンドグラスからは幻想的な光が入り込むという、とても荘厳な空間で能が演じられました。
原作者は多田富雄氏、シテは銕仙会の先輩で清水寛二さんです。
(この多田富雄氏は免疫学者でその分野では世界的な権威者。また理学博士にとどまらず、能にも造詣が深く新作能を多く手がけておられます。朝日新聞に「紅天女」の評を書かれたことはこのブログでも紹介しました。)
前置きが長くなりましたが、この新作能「長崎の聖母」の中に、女学生(純真女子学園の高校生)の歌うグレゴリア聖歌が挿入されています。長崎の被爆の様子を語るアイ狂言(神父役)の後と、後の聖母マリアが舞を舞うところです。
それはもうめちゃくちゃ感動的でした!!!
人間の声がこれほどまでに美しく、透明になるものなのか・・・・・
無垢で聖なるものに触れた喜びというか、言いようもない幸福感にひたり、思わず目頭が熱くなりました。
(これは私だけではなく、地謡を謡っていたほかのメンバーも同じことを言っていました。)
グレゴリア聖歌は好きで、時どきCDでは聞いたりしていますが、こんなに素敵に思ったことはありません。
聖歌隊は高校の女学生で、この時期が女性の一生の中で一番声の美しい時期になるそうです。この時期の後、女性は声変わりするとか。
西欧の中世において、教会で女性による聖歌が許されなかった時代には、このパーツはカストラートが受け持っていました。その歌声は天使のさえずりとまで呼ばれ、絶賛されていたようです。
もし今でもこの制度が残っているとすれば、この新作能の聖歌隊はカストラートたちが受け持っていたに違いありません。
純粋な少女たちの歌声に涙しましたが、それ以上の感動を与えてくれるものがカストラートだとすれば、これはもう何が何でも聞いてみたい、そんな思いを強く持ちました。
この浦上天主堂は
「被爆のマリア」でも有名です。
浦上天主堂が被爆され、その瓦礫の中から、聖母マリア像の頭部が発見されたというものです。
これだけ見ると被爆の苦しみを、聖母マリアが一人で担い犠牲者の霊を慰めている、そんなふうにもとれます。
この新作能の公演で、当初はこの「被爆のマリア」も舞台の背後に置くことという構想もあったようです。