平成30年1月13日(土) 銕仙会定期能〈1月〉
今度は「翁」の舞台経過について紹介します。
〈楽屋の中での準備〉
・翁飾り
楽屋入りしてまず行うことは、鏡の間に祭壇を作り「翁飾り」の用意をします。
「翁飾り」とは、「翁」に使用する面箱、翁の烏帽子と扇、千歳の烏帽子と扇。それと盃事(さかずきこと)に使う洗米、粗塩、お神酒を頂くかわらけを三宝に置き、お神酒の入った徳利とお清めの火打石を祭壇に飾ります。
この面箱の中には翁の白式尉の面、三番叟の黒式尉の面と鈴が収めら、神体そのものとして大切に扱われます。
・盃事
開演10分前ほどから、シテ方の後見二人が徳利と三宝を持って、翁太夫を先頭に出演者全員にお神酒を注いで廻ります。
手順として、三宝に置かれたかわらけを手に取りお神酒を頂き、洗米を口に含み、粗塩を体に振りかけてお清めをします。
・切り火のお清め
盃事が終わると、後見は今度は火打石による切り火のお清めを、翁太夫を先頭に出演者に行ってゆきます。
出演者のあと、最後は幕から手を出して客席に向かって切り火を行います。←開演時間の間際、幕の方に注目するとこの光景が見れます!
祭壇の前に全員が集まり、盃事や切り火のお清めの儀式を受けることになります。楽屋は清浄な空気に包まれ、神聖かつ厳粛に「翁」のための準備が進められます。
「翁」が”能にして能にあらず”と言われる理由もこんなところにあるのだと思います。
〈出演者の登場〉
身を清める儀式が終わると、さて、いよいよ幕が上がります。
神体の面箱を持つ面箱持ちを先頭に、三間くらいの間をあけて翁、千歳、三番叟の順に出てゆきます。
そのあとにシテ後見、狂言後見、地謡と続き、全員が幕から出て舞台に入ってゆくことになります。
翁太夫は舞台正面に歩み出で下座し、お客様に向かって深々と頭を下げ礼拝をします。
能の役者がお客様に向かって礼をするのは、この「翁」の時だけです。(翁の舞が終わり、白式尉の面を外してから再び舞台正面に歩み出て、再度深々と礼をします)
翁太夫が舞台奥(笛座前)に着座すると、面箱持ちは翁太夫の前に面箱を据え置き”面箱さばき”を行います。
この仕事は客席からは後ろ姿しか見えないので、何をやっているのか分かりません。
”面箱さばき”の仕事内容は、面箱のふたを開けて白式尉の面を取り出し、ふたをひっくり返してその上に面を置きます。
面ひもをきれいにそろえて、翁太夫の前に面箱を差し出すというものです。
神体を扱うということで、非常に慎重に行われ少々時間がかかります。
この”面箱さばき”が終わると下居していた全員が舞台に足早に所定の位置に着きます。
【ここまで常の舞台とは違うところ】
・出演者全員が幕から登場する。
・囃子方、地謡、後見は常の紋付き袴、又は裃を着用せず、頭に侍烏帽子を頂き、素襖(すおう)を着ます。これは武士の礼装の姿です。
・地謡は囃子方の後ろに着座する。(室町時代の舞台には今のように地謡座がなく、常に囃子方の後ろに着座していた名残といわれている)
舞台上ではすべての準備が整い、いざ「翁」のはじまり、はじまり~!
次回へ (^_-)-☆